急激な企業業績の悪化による採用内定取消は労働基準法だけでなく職業安定法の適用も受けるため、まずはそうした法令に よる規制を理解しておくことが重要です。
採用内定の法的性格ですが、会社が内定者に対して採用する旨の通知を行い、それに対して内定者が誓約
書等を提出した時点で、労働契約は成立するとされています。
新規学卒者については学校を卒業するという条件や入社日の到来という始期が付いていることから、最高裁(大日本印刷事件 昭和54年7月20日 最高裁二小判決)では採用内定
について、就労の「始期付解約権留保付労働契約」が成立したものとその判断を示しています。
このように採用内定によって労働契約が成立することから、採用内定取消は労働契約の解約、つまり解雇に当たり、労働
契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用されます。
そのため企業としては、合理的と認められる正当な理由がなければ採用内定取消を行うことはできないということになります。
上記の最高裁判決においても、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消
すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるもの
に限られる」としています。
上記のことから、採用内定取消の効力は、その取消が合理性・相当性を有する場合のみ認められることになり、客観的に
合理的と認められる正当な事由としては、以下のようなものが挙げられます。
以上のように内定者本人に問題がある場合はともかく、企業の業績悪化により採用内定取消をせざる得ない場合と言うのは
大きな問題を抱えることになります。まずはあらゆる手段を尽くし、採用内定取消を避けることが求められますが、それでも
なお、採用内定取消を行わなければらならない場合の手続きとしては、大きく労働基準法と職業安定法に基づいた対応が求め
られます。
まず、労働基準法関連としては、採用内定取消について同法の第20条および第22条の規定が適用されます。そのため、解雇
予告等の解雇手続きを適正に行う必要があり、内定者が採用内定取消の理由について証明書を請求してきた場合は、遅滞なく
これを交付する必要があります。
併せて、職業安定法施行規則第35条第2項に基づき、所定様式「新規学校卒業者の採用内定取消し通知書(様式19)」によりハロ
ーワークおよび大学・高校等の長に通知することになっています。
採用内定取消の防止に向けて、国は採用内定取消の内容が厚生労働大臣の定める場合に該当するとき、学生・生徒等の適切
な職業選択に資するためその内容を公表することができるとして、企業名公表を行うとしています。新規学卒者にとって、
就職は職業生活の第一歩を踏み出す重要な機会であることから、このような事態とならないために、企業としては最大限の
経営努力と就職先の確保に向けて具体的な支援をしていくことが求められます。